前回のコラムを読まれた方から、「棺桶の中の電話に間違ってかけてしまって、誰かが出たら怖いですね」とのコメントをいただいた。実は、埋葬後でも呼びかけに応えてくれる人もいる。 環境保護や「自然に帰る」ことなどを目的に、棺桶なしで、あるいは生分解される棺桶に入れて埋葬したりする、自然葬という方式があるが、その場合は、墓石なども基本的に置かないようだ。外観上は自然な野原という、自然葬の狙い通りの情景が実現されるわけだが、そうすると墓地にはお参りできても、具体的な永眠場所にピンポイントでお参りすることは難しくなってしまう。そこで最近は、埋葬時にRFIDの“名札”を身につけ、お参りに来た人が近づくと「私はここで眠っています」と挨拶できるという仕組みが利用されるようになっている。墓参者側の装置も、当初は掃除機のような大きさだったが、小型化が進み、近い将来には携帯電話程度のサイズになるという。 ところで、ひと気のないところからメッセージが届くと聞いて連想するのが、火星探査機フェニックスだ。2007年8月に打ち上げられたこの探査機は、翌年 5月に火星に着陸し、水の氷を発見するなどの活躍をした後、11月に息絶えるまでの間、毎日のようにブログを通じて近況報告を送り、世界中の人たちからの応援メッセージや質問に返信していた。冬が近づくと、極域に着陸した自分の死期を悟った“彼”からは、「ボクたち探査機は帰りの切符がないことを十分承知しています。でも、こんなにやりがいのある仕事はありません」といったメッセージが届くようになった。地球との通信が途絶えた後に掲載された遺言には、「地球の皆さん、これがボクからの最後の書き込みです。このメッセージは、ボクが息絶えたときに表示されるようにしてあります。ボクは永遠の眠りにつきますが、ボクの火星探査の成果は天文学の進展に役立てられ、将来は子供たちが読む教科書にも載ることでしょう。僚機スピリットとオポチュニティのことをよろしく」と書かれており、読者の涙を誘った。 このブログの背景にはもちろん、フェニックスの“気持ち”を代弁する生身の人間がいたわけだが、自分のブログを一人称で更新する探査機に世界中の人が共感し、連帯感を覚えた。感心よりも感動を誘ってフェニックスの活動を印象付けたNASA広報の働きは、お役所仕事の枠を超え、実に見事なものだったといえよう。
NTT DATA AgileNet (岡田)